職業:大学のキャリアセンターで新卒〜若年者の就職支援を担当(現役)
資格:キャリアコンサルタント(国家資格)の他、CDA(キャリアデペロップメントアドバイザー)、進路アドバイザー、メンタルヘルスマネジメントⅡ・Ⅲ種など、キャリアと心理に係る多くの資格を取得。
備考:大学卒業後、新卒で銀行に就職したものの1年で退職し、その後5年間で5回の転職を経験。この経験から職業選択の重要性を痛感し、キャリアと心理に関する複数の資格を取得。大学のキャリアセンターに転職しこれまでに多くの求職者サポートに携わる。
※この記事は、キャリアコンサルタント(国家資格)を持ち、現役で就職支援に従事している専門家が解説しています。
「正社員が正義」という考え方は薄れつつあります。ただし、安易に契約社員を選ぶと後悔する可能性もあります。
絶対に正社員を選ぶべき?
ひと昔前までは「雇用形態は正社員の一択」でした。
これは日本企業のほとんどがメンバーシップ雇用を採用し、「会社に適した人材」を採用してきた為です。
企業が人材を囲い込むため、企業の従業員に対するサポートが手厚く、終身雇用や年功序列といった日本特有の制度が発展しました。
ですがそれは人口が今後も増えていく前提で成り立つシステムです。
現在は緩やかに崩壊しつつあり、岸田首相は「日本に合った職務給」への移行(ジョブ型雇用)を推進しています。
- ジョブ型雇用:職務内容を詳細に定義し、労働時間ではなく職務や役割に基づいて評価と報酬が行われる。転勤が基本的になく、職務を中心に雇用される形態なので専門性とスキルを高められる。通年採用が基本。
- メンバーシップ型雇用:これまでの主流。労働時間や勤務地、職務内容が限定されず、転勤や異動が一般的。就社(会社に就職する)という概念がある。倒産しない限り基本的には定年まで雇用し続ける終身雇用制度。新卒一括採用。
ジョブ型雇用が広まっている背景には、さまざまな要因が影響しています。
・労働市場の多様化: 以前は正社員が安定とされ、他の雇用形態が少なかったが、現代は派遣社員、契約社員、フリーランスなど多様な雇用形態が存在し、ライフスタイルやキャリア目標に合わせて選択できるようになった。
・柔軟性の重視: 若年者層を中心に、キャリアの柔軟性を重視する傾向が強まっている。正社員になることが必ずしも最善の選択ではなく、プロジェクトごとに仕事を受けるなど柔軟な働き方が増加した。
・雇用の安定性への疑念: 正社員でも、不況やリストラなどにより安定性が保障されない。このため、一定の収入を確保するために複数の雇用形態を組み合わせる人が増えている。
・スキル重視の時代: 企業はスキルや実績を重視するようになり、正社員以外の雇用形態でも優秀な人材を採用することが増えている。実績があれば、正社員でなくても高収入やキャリアの発展が可能に。
これらの理由から「絶対に正社員を選ぶべき」という概念が変わりつつあります。
既卒は就職できないという誤解
市場価値というのは、需要と供給のバランスに左右されます。
日本の給与水準は過去20年間ほぼ横ばいで、年収は400万円台前半の水準にとどまっています。
ただし、「新卒」の給与については、少しづつではありますが上がり続けています。
【男性】 |
【女性】 |
引用:新規学卒者初任給ー(独)労働政策研究・研修機構
以下は、日本の人口構造の変化を示していますが、今後ますます若い世代(20代)が少子化の影響で減少していくことが明らかです。
引用:日本の人口ピラミッドの変化ー厚生労働省
そのため、若い世代に対する給与水準は今後も上昇し続ける可能性が高いと予測されています。
もちろん、大手・有名企業は倍率が高い(供給が多い)ので就職が難しい場合もありますが、極端に理想が高い場合を除き、既卒が正社員として就職する事は特に難しい事ではありません。
正社員と契約社員のメリット比較
ではまず、正社員で働く時と契約社員として働く時のメリットを比較してみましょう。
- 安定した雇用:長期的な雇用安定性が高く、雇用契約が安定。
- 福利厚生:健康保険、年金、有給休暇などの社会保険と福利厚生が提供される。
- 昇進の機会:社内においてキャリアの成長と昇進の機会が豊富。
- 定期的な収入:一定の給与とボーナスが支給され、収入が安定。
- 柔軟性:プロジェクトや期間に合わせて契約が調整されるため、柔軟な働き方が可能。
- タスク多様性:異なるプロジェクトで経験を積むため、スキルの幅を広げることができる。
- 専門性の構築:特定のスキルや分野に特化し、専門家としての知識を深められる。
- 高い時給:契約社員の時給は通常高く、プロジェクトに応じて報酬が変動することがある。
正社員と契約社員のメリットを比較すると、雇用の安定性は正社員に軍配が上がります。
また収入においても社会保険や福利厚生面を鑑みると正社員の方が上である事が多いです。
更に正社員は社内において昇進の機会が用意されていますが、契約社員にはあまりありません。
それゆえに自身の専門知識を向上させ、自分自身で価値を高めていく必要があります。
ただし、社会は目まぐるしく変化しており、大手企業であっても倒産する昨今、正社員=安定というのは少し安直な考え方です。
正社員と契約社員のデメリット比較
では次に正社員と契約社員のデメリットについて見ていきましょう。
- 長時間労働:一定の業務量をこなす必要があり、長時間の労働が求められることがある。
- 過度な責任:役職や職位に応じて、高い責任が課せられることがあり、ストレスの原因になることがある。
- 昇進の競争:昇進や昇給に競争が激しく、頻繁な評価が求められることがある。
- 雇用の不安定性:プロジェクト終了後、次の契約がない場合に雇用の不安定性が高まる。
- 福利厚生不足:正社員に比べて社会保険や福利厚生が限定的で、自己負担が増えることがある。
- 有給休暇制限:契約期間中は有給休暇が限られることがあり、休暇取得に制約がある。
- キャリアの停滞:契約社員としての経験を積み重ねても、正社員のように昇進の機会が制限されることがある。
正社員の場合、雇用は安定しており、社会保険や福利厚生が充実していますが、長時間労働や高い責任を担うことがあり、昇進は競争が激しくなります。
一方、契約社員は柔軟性があり、様々なプロジェクトで経験を積む機会がありますが、雇用の不安定性が高く、福利厚生や有給休暇が制約されることがあり、社内での長期的なキャリアの発展が難しいこともあります。
本当に「もったいない」のは固定観念で決めてしまう事
「就職するなら正社員一択」と考える人は、年配の方を中心に非常に多く、転職の際も正社員以外はキャリアと捉えない企業があるのも事実です。
ただし契約社員でもきちんと評価してくれる企業もあります。
多様な雇用形態が増える中で、雇用形態ではなく「中身」を評価してくれる企業は今後も増えていく事が予想されます。
正社員?それとも契約社員?選択時の注意点
現状、世間の評価は正社員に軍配が上がります。
政府主導でジョブ型雇用が推進されているのは「専門性の高い人材を育てて国際競争力を高めるため」です。
ただ「なんとなく」契約社員になるのと「専門性を高めたい」と契約社員になる事は全く違います。
その為「紹介された求人が契約社員だったから…」というように、流されて契約社員になってしまった場合、何の専門性も習得できず、次に転職する際に苦労する事になります。
ただし、雇用の安定性やキャリアに重点を置く人が多い一方、新卒採用の卒後3年以内の離職率が3割(大卒の場合)である現実も考慮すべきです。
政府がジョブ型雇用を推進している状況を考えると、私の本音としては、職業人生の初期にそこまで正社員にこだわる必要性があるのか、少し疑問に感じる事があります。
ただ、もし契約社員を選ぶのであれば今後成長する産業から選ぶ事をおすすめします。
というのも、今後成長する産業では、企業も成長し、多くの雇用機会とチャンスが生まれるからです。
そのため入社しやすく、収入も向上しやすい事が多く、そこから正社員になるという可能性も大いにあるからです。
また、もし入社後に「会社と合わない」と感じた場合でも、比較的簡単に転職することができるというメリットがあります。
- IT業界
- EC業界
- 介護業界
- 医療業界
- フードデリバリーサービス業界
正社員・契約社員ともに多くのメリットとデメリットがありますが、これらを理解した上で企業を選択するのであればきっと納得のいく判断ができるのではないでしょうか。
既卒におすすめの就職サイト・転職エージェントについてはこちらにまとめています。