発達障害(ASD・ADHD)の高校生は大学進学すべき?仕事から考える進路選択
私は大学で就職支援をしており、これまで発達障害(ASD・ADHD)の可能性が疑われる方の就職相談にも数多く関わってきました。
また、私自身の子どもにも発達グレー(ASD傾向)があると医師から言われており、日々子どもの将来について考えています。
大学では4年生の就職支援を担当することが多いのですが「自分にこの勉強は向いていないかもしれない」「就職活動をどう進めればいいのかわからない」と悩んでいる学生を見ると、もう少し早い段階で、本人に合った進路や仕事について考える機会があればよかったのではないかと、もどかしく感じることがあります。
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もしこの記事を、高校生以下で進路に迷っている方、あるいはその親御さんが読んでくださっているのであれば、ぜひ一つの参考にしていただければと思います。
発達障害でも、一般大学を卒業して働いている人は多い
発達障害があっても一般の大学に進学し、その後、一般企業に就職して働いている人はたくさんいます。「発達障害がある=仕事ができない」というわけではありませんし、自分の得意分野を生かすことができれば、仕事で大きな成果を上げる人もいます。
一方で、大学生活や就職活動、さらには就職後の仕事で大きな困難を感じる人もいます。
この違いを考えるうえで重要なのが、「発達障害があるかどうか」だけではなく、その人自身の能力や特性の凸凹、そして環境との相性を知ることです。
私は大学で就職支援をしてきた経験から、発達特性があったとしても、さまざまな能力が全体的に高く、自分の得意分野を生かせる人は、多少苦手なことがあっても仕事の中でカバーできる場合が多いと感じます。
一方、能力や得意・不得意の凸凹が大きく苦手なことが多い人は、さまざまな面で苦労しがちです。
もちろん、これは診断名や知的能力だけで単純に判断できるものではありません。同じASD、同じADHDであっても、困っていることや得意なことは一人ひとり違うからです。
だからこそ、「発達障害だから大学はやめておいたほうがいい」とも、「発達障害でも大学に行けるから何も心配しなくていい」とも、一概には言えません。
大学卒業後の就職で苦労する発達障害者もいる
私が若年者の就職支援をしていて感じるのは、発達障害がある人の中でも、特に能力や得意・不得意の凸凹が大きい人は、自分の特性を生かせないと苦労するケースが多いということです。
大学の授業や試験では問題なく結果を出せていたとしても、就職すると状況が大きく変わります。大学では、基本的に「授業に出る」「課題を提出する」「試験を受ける」といった、ある程度決まったルールの中で生活できます。
しかし、会社では「これをやっておいて」と言われても、どこまでやればいいのか明確ではないことがあります。予定していなかった仕事を突然頼まれることもあります。複数の仕事を抱えたときに、自分で優先順位を決めなければならないこともあります。
このような、大学生活とは異なる「仕事ならではの難しさ」に直面することで、それまで大きな問題を感じていなかった人が、就職後に困難を感じることもあります。
同じASDでも、対人コミュニケーションにそれほど困難を感じない人もいれば、人とのやり取りに強い負担を感じる人もいます。
ADHDでも、行動力や発想力を強みとして発揮できる人がいる一方で、忘れ物やスケジュール管理、複数の仕事を並行して進めることに大きな困難を感じる人もいます。
さらに、本人の特性だけではなく、周囲の環境や勉強・仕事内容との相性も大きく関係します。
そのため、まず「どんな進路があるか」を知識として広く知っておく必要があるのです。
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高校生本人だけで「自分に向いている仕事」を判断するのは難しい
高校生本人が「自分に向いている仕事」を一人で判断するのは、簡単なことではありません。特に発達特性のある人の場合、自分では気づいていない得意・不得意や、周囲から見た自分の特徴があるためです。
これを考えるうえで参考になるのが、心理学における「ジョハリの窓」という考え方です。
ジョハリの窓では、自分自身についての情報を以下の4つに分けて考えます。
- 自分も知っていて、他人も知っている「開放の窓」
- 自分は知っているが、他人は知らない「秘密の窓」
- 自分は気づいていないが、他人は知っている「盲点の窓」
- 自分も他人もまだ知らない「未知の窓」
職業選択に置き換えてみると、例えば本人は「自分は人と関わる仕事が向いている」と思っていても、周囲から見ると「細かい作業を正確にこなすほうが得意」ということがあるかもしれません。
逆に、本人は「自分は何も得意なことがない」と思っていても、親や先生から見ると、「一つのことに長時間集中できる」「細かな違いによく気づく」といった強みが見えていることもあります。
つまり、自分一人で自分の適性を判断しようとすると、自分では見えていない部分を見落としてしまう可能性があります。
また、自分に合った仕事を見つけるには、「自分を知ること」と「仕事や社会を知ること」の両方が必要です。
しかし、まだ社会経験の少ない10代の高校生が、世の中にどのような仕事があり、それぞれどのような特徴があるのかを十分に知るのは難しいでしょう。
だからこそ、本人だけで考えるのではなく、親や先生、キャリア支援者など、周囲の大人が本人の特性や強みを見つけ、それに合う可能性のある職業を教えることが重要だと私は考えています。
「知らなかった進路や仕事」を知ることで選択肢が広がる
私は医療系の大学生と就職面談をすることがよくあります。その中で、個人的な印象ではありますが、臨床検査技師を目指す学生の中には、ASDの特性と比較的相性がよさそうだと感じる学生に出会うことがあります。
そして興味深いのが、親が医療従事者であるなど、家庭を通じて「臨床検査技師」という仕事を知り、その仕事を目指しているケースが少なくないことです。
私はこうしたケースを見ると、親が子どもの特性を理解したうえで、子ども自身がまだ知らない職業を教えることには、大きな意味があるのではないかと感じます。
これは、先ほどの「ジョハリの窓」でいう「盲点の窓」とも関係しています。
本人からは見えていない「自分の強み」を、親や先生など周囲の人が見つける。そして、その強みに合う可能性のある仕事を教える。そうすることで、本人だけでは見つけられなかった進路が、「自分にもできるかもしれない仕事」として見えてくることがあります。
臨床検査技師は、医師や看護師などと比べると、それほど知名度が高い職業ではありません。そのため、本人が「臨床検査技師」という仕事を知らなければ、どれだけ適性があったとしても、そもそも進路の選択肢に入ることはありません。
臨床検査技師は、血液や尿などの検体を調べたり、心電図などの検査を行ったりして、検査を通して病気の発見や治療を支える医療専門職です。
また、臨床検査技師の仕事には以下のように、ASDの特性を活かせる可能性のある部分もあります。
- 正確さや細かさを活かしやすい
- 決められた手順やルールに沿って作業できる
- 一つの作業に集中する力を活かしやすい
- 数値やデータを扱うことが得意な人と相性がよい場合がある
- 興味のある分野を深く追究する力を活かしやすい
※「臨床検査技師を目指す学生の中にはASD傾向の人も多い」というのは、私がこれまで接してきた学生についての個人的な印象であり、統計的な話ではありません。あくまで、「本人が知らない職業を周囲が教えることで、進路の選択肢が広がる」という一例として紹介しています。
また、親の「この子は、こういうことが得意だから、この進路や仕事が向いているかもしれないという視点も、私は非常に大切だと感じています。
もちろん、最終的に進路を決めるのは本人ですし、親が「あなたはこの仕事に行きなさい」と決めるべきではありません。
しかし、親は子どものことを何年も見てきています。学校の成績だけではわからない、
- 何をしているときに集中しているか
- どんなことなら苦痛なく続けられるか
- どんな場面で強いストレスを感じるか
- 人との関わりが得意なのか苦手なのか
- 細かい作業が得意なのか
- 一人で黙々と取り組むことが好きなのか
- 予定変更に強いのか弱いのか
といったことを知っているのは、身近にいる人だからこそです。
そのうえで、親など周囲の大人も積極的に情報を集め、「こんな仕事もあるよ」と子どもの選択肢を広げてあげてほしいと私は思っています。
「発達障害に向いている仕事」だけで進路を決めてはいけない
「発達障害に向いている仕事」と検索すると、インターネット上にはさまざまな職業が紹介されています。
例えば、一般的には次のような仕事が挙げられることがあります。
| 仕事 | ASD | ADHD | 向いていると言われる理由 |
|---|---|---|---|
| プログラマー・システムエンジニア | ◎ | ○ | ASDは論理的に考える力や、一つの作業に集中する力を活かしやすい。ADHDも興味のある分野で高い集中力を発揮できる場合がある。 |
| CADオペレーター | ◎ | △ | ASDは正確さやルールに沿って作業する力を活かしやすい。ADHDは細かな確認作業や長時間の集中が負担になる場合がある。 |
| 研究・技術職 | ◎ | ○ | ASDは特定の分野を深く掘り下げる力を活かしやすい。ADHDも興味のあるテーマへの探究心や発想力を活かせる場合がある。 |
| 営業職 | △ | ◎ | ASDは相手の意図をくみ取ることや臨機応変な対応が負担になる場合がある。一方、ADHDは行動力やフットワークの軽さを活かせる場合がある。 |
| 販売・接客 | △ | ◎ | ASDは状況に応じた対人対応が負担になる場合がある。ADHDは人と接することや変化の多い環境を楽しめる場合がある。 |
| イベント企画・運営 | △ | ◎ | ASDは予定変更や突発的な対応が負担になりやすい。一方、ADHDは行動力や発想力を活かせる場合がある。 |
| Webライター・クリエイティブ職 | ○ | ◎ | ASDは得意分野を深く掘り下げる力を活かしやすく、ADHDは豊かな発想力や興味のあることへの高い集中力を活かせる場合がある。 |
ただし、このような一覧表だけを見て、進路や仕事を決めることはおすすめしません。これはあくまで一般的な傾向であり、ASDもADHDも一人ひとり特性や得意・不得意が異なるからです。
また、前述した「ジョハリの窓」のように、自分では気づいていない強みや特徴があることもあります。
そのため、本人が「自分にはこの仕事が向いている」と考えるだけでなく、親や先生など、本人をよく知る周囲の人から見た意見も聞いてみることが大切です。
本人の考えと周囲から見た本人の特徴をすり合わせ、実際の仕事内容や職業体験などとも照らし合わせながら進路を考える。それが、自分に合った仕事を見つけるために重要なことだと考えています。
例:文系の大学を卒業した学生の就職先
例として、文系の大学進学後の就職についても少し考えてみましょう。
一般の4年制大学の文系学部を卒業した学生は、さまざまな企業の業界・業種を就職先として選ぶことができます。
一方で、実際に企業に入社して担当する「職種」は、営業、事務、販売・サービスなどが中心になります。
つまり、大学卒業後の就職では幅広い業種の中から応募する企業を選ぶことができますが、実際に行う仕事は(特定の資格職を目指していない限り)ある程度限られた職種の中から自分に合うものを探していくことになります。
会社の「業種」ではなく「職種」に適性があるか考えよう
「専門学校に行くと就職先が限られるから、一般の大学に進学する」という話を聞くことがあります。これは一面では正しいのですが、大学に進学すれば、実際に行う仕事の選択肢まで大きく広がるとは限りません。
ここで知っておいてほしいのが、「業種」と「職種」は全く違うということです。
例えば、大学を卒業すると、メーカー、金融、IT、医療、サービスなど、さまざまな業種の企業に応募することができます。
しかし、その会社に入って実際に担当する仕事は、営業、事務、販売など、特定の職種になることが多いのです。
そのため、発達特性のある人が進路を考えるときには、「どんな会社に入るか」だけでなく、「その会社でどんな仕事をするのか」という職種との適性を考えることが重要です。
もちろん、発達障害があるからといって、営業・事務・販売が一律に向いていないわけではありません。しかし、これらの職種では、対人コミュニケーション、臨機応変な対応、複数の業務を同時に進めること、曖昧な指示への対応などが求められることが多く、こうしたことを強く苦手とする人にとっては、大きな負担になる可能性があります。
「大学に進学すれば、卒業後は一般企業に就職できる」と考えるだけでは不十分です。大学卒業後にどのような職種に就くことになるのか、その仕事が本人の特性に本当に合っているのかまで考えておく必要があります。
だからこそ、大学に入ってから「自分は何の仕事ができるんだろう」と考えるのではなく、高校生の段階から、できるだけ多くの仕事を知り、自分に合う可能性のある職種を探しておくことが重要なのです。
高校生のうちに、できるだけ多くの仕事を知っておこう
高校生の進路選択では、将来どのような仕事に就きたいのか、あるいはどのような仕事なら自分の力を発揮しやすいのかを考えたうえで、進学先を選ぶことが非常に重要だと私は感じています。
もちろん「勉強が好きだから、できるだけ学業に力を入れて国立大学を目指す」という進路も良いと思います。大学で学びたいことが明確にあるのであれば、大学進学は当然有力な選択肢です。
一方で、特に目的がないまま「とりあえず大学くらいは出ておこう」という理由で大学進学を考えているのであれば、専門学校など、特定の職業を目指すための進路をぜひ検討してほしいと私は考えています。
私は、発達特性があり大学での就職活動に苦労する学生をこれまで見てきたからこそ、大学進学を前提にしてしまうことに注意が必要だと感じています。
これは「発達障害なら専門学校に行くべき」という意味ではありません。どちらがその人の特性や将来の希望に合っているのかを、高校生の段階で比較しておくことが大切だということです。
将来のために「今」やるべきこと
発達障害があり、進路選択に悩んでいるのであれば、最初から「大学に行く」と決めてしまうのではなく、次のようなことを調べてみてほしいと思います。
- どのような職業があるのか調べる
- その職業に就くためには何を学ぶ必要があるのか調べる
- 大学と専門学校の違いを調べる
- さまざまな学校の資料を取り寄せる
- オープンキャンパスに参加する
- 職業体験に参加する
実際に学校を見たり、職業体験をしたりすると、インターネットで情報を読んでいるだけではわからなかったことが見えてくることがあります。
そして、いろいろ調べた結果、「やっぱり自分は大学に行きたい」となるのであれば、それももちろん良い選択です。大切なのは、「大学に行くか、専門学校に行くか」を最初から決めてしまうことではありません。
高校生のうちにできるだけ多くの選択肢を知り、その中から、本人の特性や希望、得意・不得意に合った進路を考えることです。そのためにも、まずは「世の中にはどんな学校や職業があるのか」を知るところから始めてみてください。
進路を考えるうえで便利なのは、無料・登録不要で利用できるスタディサプリ進路の適職診断です。自分に向いている仕事や、その職業を目指せる学校がわかるため、「何がやりたいのかわからない」という人が、自分に合いそうな仕事を探すきっかけにもなります。
「大学に行く」という選択肢だけに絞る前に、ぜひ一度、幅広い進路を見てみることをおすすめします。
発達障害だと診断されても、就職活動時に必ず公表する必要はない
最後に、発達障害と診断されているからといって、就職活動の際に必ず企業へ伝えなければならないわけではありません。
障害を開示せず、一般枠で就職活動をすることもできます。障害を開示しない場合、企業側は本人の障害特性や困りごとを把握できないため、障害を理由とした合理的配慮を行う必要がなく、企業側の負担も一般的な採用・雇用の場合と同様になります。
一方、障害を開示して就職活動を行い、障害者雇用で働くという選択肢もあります。障害を開示することで、本人の特性に応じた配慮を企業に相談しやすくなる一方、企業側には必要な配慮や支援を検討する負担が生じます。
これは「発達障害と診断されたら、必ず障害者雇用で働く」という単純な話ではありません。本人の特性や困りごと、必要な配慮、企業側の負担、そして本人が希望する働き方などを踏まえて、どの就職方法が自分に合っているのかを考えることが大切です。
高校生の段階では、まだ障害を開示するかどうかまで決める必要はありません。まずは自分の特性を知り、どのような進路や仕事があるのかを知ることから始めてみてください。



